葛城・一言主の彼岸花と高天原

今年の彼岸花は秋分の日より一週間ほど遅れているようです。9月の終わりにかけて、葛城古道や飛鳥といった大和の田園地帯では、よく実った稲穂で金色の田んぼの畦に、赤いラインが鮮やかに走っている風景が見られました。
この写真は葛城・一言主神社の参道の両側に広がる彼岸花の群生です。
古事記では雄略天皇をやりこめた神として登場する一言主。神社本殿の脇には万葉歌碑があります。

葛城の 襲津彦真弓 荒木にも 頼めや君が 我が名告りけむ

葛城氏の勇者として名高い襲津彦の弓に使う荒木のように、あなたは私が妻になると強く信じて、私の名を人に告げたのでしょうか。上古には、思い人の名を漏らすことは、二人の関係を壊すことになるという通念があったようです。
ここ一言主神社には、とても立派なイチョウの木があります。樹齢1200年、幹から乳房のようなものが垂れているので、乳銀杏と呼ばれています。この写真は2012年に撮ったのですが、台風などにも負けず今年も立派な黄葉を見せてくれるでしょうか。
一言主神社から山麓バイパスを南下し、途中で山の方に登っていくと、高天の集落があります。天孫降臨の高天原にも比される村ですが、土蜘蛛の塚や式内社の高天原神社などもあり、古代に想いを馳せるには格好の地です。その集落のはずれに橋本院があり、もう耕されなくなった田んぼの畦を彼岸花が飾っていました。
寺門の前には万葉歌碑があります。

葛城の 高間の草野 早知りて 標刺さましを 今ぞ悔しき

葛城の高天に可愛い娘がいたんだ。もっと早くに知っていたら声をかけていたのに、人妻になってしまって悔しいことだよ。「標(しめ)刺す」という表現が、額田王の「あかねさす紫野行き標野行き」の歌を思い起こさせます。
高天原神社は、背後の白雲岳を御神体としているそうです。高皇産霊神(タカミムスヒ)らとともに祀られている高天原大神は、記紀などには登場しない神です。あるいはこの地にもともと住んでいた土蜘蛛が征服され、鎮められた存在なのかもしれません。

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