九品寺の彼岸花と「いちし」の花
葛城古道沿いの至る所で咲いている彼岸花。ほとんどは田んぼの畦でレッドラインを描いていて、群落にはなっていないのですが、九品寺の前では田んぼ一枚分を埋め尽くす彼岸花が見られます。9月末、大和三山をバックに満開を迎え、カメラを構える人でいっぱいでした。
九品寺は行基が開いたと伝えられる古刹で、境内には数え切れないほどの石仏があります。特に本堂から裏山を登ったところに現れる千体仏は圧巻です。一体一体の顔を見ていると、自分と同じ顔に出会える、といいますが、なかなか気が遠くなるボリュームです。
ここでも彼岸花がつつましく咲いていました。この時期の大和を埋めるほどの彼岸花ですが、万葉集には「いちし」という名で、一首だけ登場します。それも現在の彼岸花かどうか、諸説ある歌です。
道の辺の 壱師の花の いちしろく 人皆知りぬ わが恋妻は (柿本人麻呂、巻11-1480)
道端のいちしの花のようにはっきりと、私が恋する妻のことが、みんなに知れ渡ってしまったよ。
「壱師」は「いちしろく」を引き出す序詞のような役割をしていますが、逆に「いちしろい=はっきりした色の」を語源として「いちし」と名付けられたとして、彼岸花とみる説が生まれたようです。細い茎の先、一本にひとつずつ花がついている様子が、「一白し」と見られたのかもしれません。白い彼岸花もあることですし。
黄色い彼岸花もありました。ショウキランという中国原産の植物で、これが赤い日本のヒガンバナと交配して、白い彼岸花(アルビフロラ)ができた可能性もあるそうです(彼岸花の城下農園さんのHP参照)。人麻呂の見た彼岸花は、やっぱり赤い花だったんでしょうか。
0コメント