ハマユウの孔島へ

8月の終わり、新宮市三輪崎にある孔島を訪ねました。ハマユウの群生地があり、ほかにもハマヒルガオやノアサガオなど、珍しい植物が見られる島です。ハマユウの花期は7月から8月で、ぎりぎり間に合った感じです。
三輪崎漁港に車を止めて、防波堤づたいにまず鈴島へ。一周100メートルもないくらいの小さな島ですが、穴の開いた岩や尖った奇岩があって見飽きません。防波堤とほとんど一体化しているのが惜しいのですが、水はとてもきれいで静かに岩を映しています。
孔島は鈴島よりずっと広く、防波堤から降りると砂浜が島へとつながっています。そこに待っているのが、まだ新しい朱塗りの鳥居。島へといくつも連なった先には、厳島神社が建てられています。本殿脇の石灯籠には江戸中期の年号である「延享」が刻まれ、かなり昔から漁師たちの信仰の対象だったことを語ります。
島の周りには遊歩道が整備され、そこで念願のハマユウに出会うことができました。この夏の猛暑にやられたのか、盛りを過ぎた花も多かったのですが、太い茎と厚い葉が南国の雰囲気を醸し出しています。

み熊野の 浦の浜木綿 百重なす 心は思(も)へど 直(ただ)に逢はぬかも

神社の横には、犬養孝さん揮毫の万葉歌碑が建てられています。人麻呂の歌として巻四に残されたこの歌は、万葉集で唯一ハマユウをうたっています。かつては孔島に限らず、熊野灘沿岸の至る所にハマユウが咲いていたそうです。「百重なす」については、幾重にも重なる葉のことだとか、茎を剥いても剥いてもきりがないさまだとか、諸説ありますが、いずれにせよ恋人への積み重なる想いを託した表現。想っても想っても逢うことができないのは、許されない恋だからなのか、それとも運に見放されているためなのか。
防波堤の内側に広がる三輪崎港にも、万葉歌が残っています。

苦しくも 降り来る雨か 三輪崎 狭野の渡りに 家もあらなくに

突然の雨に難渋する長忌寸意吉麻呂の歌です。大和の三輪に比定する説もありますが、海辺の旅路の心細さの方ふさわしい気がします。雨に打たれるハマユウの葉は、きっと心を乱す、うっとうしい音を立てたことでしょう。

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